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603 魔王の計画

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包み焼きハンバーグ。
 アルミホイルで包むのが理想だが、そんなものはないので和紙で包んでいる。
 ハンバーグの汁を吸い過ぎない和紙の開発には、一村いちのむらの住人たちが頑張った。
 おかげで美味しい包み焼きハンバーグを作ることができた。
 この包み焼きハンバーグ、子供たちからの人気が特に高い。
 味もだけど、包まれているのがいいらしい。
 その包み焼きハンバーグが夕食に出た。
 子供たち、大歓声。
 その声に、料理を作った鬼人族メイドたちもにっこり。
 大人たちも、包み焼きハンバーグに文句を言う者はいない。
 しかし、事件が起きた。
 包み焼きハンバーグの包みを開く時、中の蒸気で火傷やけどまでは至いたらなくても熱い思いをすることがある。
 それを気遣ったライメイレンが、ヒイチロウの包み焼きハンバーグの包みを破いたのだ。
「それのどこが事件なのだ?」
 麻雀をやっていて夕食の場にいなかったドースの質問に、俺が応える。
「自分で破りたかったそうだ」
 現在、ヒイチロウは部屋に篭こもって拗すねている。
 ライメイレンはその部屋の前で平謝り中。
 グラルはその横で心配そうに見ている。
「新しいものを作ってやればいいのではないか?」
 ドースの解決策は、効果があるだろう。
 しかし、できなかった。
「あの程度のことで拗ねるような子には、食べさせる必要がないわ」
 そうハクレンが言うからだ。
 たしかに、断りなく破ったライメイレンも悪いが、ライメイレンの行動が悪意からのものではないのはヒイチロウだってわかっているだろう。
 それでも拗ねているのは……
 うーん。
「普通に、母親がお腹の子ばかり気にするから嫉妬しているのでは?」
 ウルザの友達、イースリーの意見にはっとさせられる。
 ヒイチロウの面倒をライメイレンがみているから忘れがちだが、ヒイチロウの母親はハクレン。
 ハクレンもヒイチロウの面倒をみないわけではないが、妊娠してからはその回数が減っている。
 ……
 ここは父親として俺の出番か。
 やめておけと、ドースに止められた。
 あれ?
 そういう方面で信用がないとは心外だな。
 子供にはそれなりに人気があるのに……
 そうじゃない?
 ああ、ヒイチロウの部屋にハクレンが向かったらしい。
 むう。
 ハクレンに任せるか。
 結果だけ言えば、ヒイチロウの機嫌は直った。
 そして、翌日の夕食も包み焼きハンバーグとなった。
 包み焼き用の紙、貴重なんだけどなぁ。
「村長、五村ごのむらのことで少し相談がある」
 ヨウコに言われ、コタツに入ったままではあるが俺は仕事モードに。
 ヨウコの相談は、五村で行っている紙の生産に関して。
 一村から紙作りができる者を招いて、五村でも紙作りを始めたのだが……
 紙の生産量が向上しない。
 原因を調査して判明したのは、五村は紙作りに適した場所ではないらしい。
 紙作りには奇麗な水が大量に必要となるのだけど、その水が足りないのだそうだ。
 なるほど。
 それでどうするのかと言うと、ヨウコとしては五村は紙の生産から手を引いて、代わりに周辺の村に紙作りの技術を伝えたいようだ。
 俺にその許可を出してほしいと。
 許可を出すのはかまわないが、条件がある。
「条件?
 作った紙の買い取りは独占するつもりだが?」
 独占?
 全部買い取るの?
「紙の値を安定させるためには、必要な手だと思うが」
 まあ、たしかに……なるべく高く買い取ってあげてね。
「紙の出来次第と言っておこう。
 甘やかしては、技術が育たぬからな」
 むう。
「それで、条件とは?」
 そうだった。
 植林だ。
 紙作りには、奇麗な水のほかに材料となる木が必要だろ?
 伐採した木の数だけ、植林することを条件にしたい。
「村長が前々から口にしている自然破壊か……
 木など、いくら切っても大丈夫そうではあるが……」
 雑草ならそうかもしれないけど、木は育つのに時間がかかる。
 技術を渡したことで、禿はげ山を大量に作られてもな。
「ありえないことではないか。
 わかった。
 その条件を加え、進めさせてもらう」
 任せた。
 ヨウコが去ると、コタツの中にもぐっていた子猫たちが顔を出した。
 アリエル、ハニエル、ゼルエル、サマエル……
 姉猫たちは、虎の背中だからコタツの中は独占だな。
 だけど、中に入りっぱなしは駄目だぞ。
 定期的に空気の入れ換えもしないと。
 俺がコタツの中の空気を換えていると、魔王がやってきた。
 アリエルたちが魔王に寄っていく。
 ぐぬぬぬ。
「村長、少し時間をもらえるか」
 魔王も仕事の話だった。
 なんだろ?
 あれ?
 ルーも参加するの?
 ルーと魔王の話は簡単だったが、驚きがあった。
 ルーが転移門を完成させていた。
 すごいじゃないか!
「材料の関係で量産は厳しいけどね。
 それでも、魔王の計画に乗れるだけの数は用意できるわ」
 魔王の計画?
 数?
「魔王国の王都とシャシャートの街を転移門で繋ぐのだ」
 ……
 王都とシャシャートの街が転移門で繋がれば、どうなるだろう?
 たしか馬車で三十日ぐらいかかる距離だったか?
 経済的にすごいことになるんじゃないか?
 ……
 待て待て。
 その前に確認だ。
 転移門の存在を公表することになるが大丈夫なのか?
 前にそれで俺の持つ転移門の扱いに関して、注意されたぞ。
 他国を無用に脅おびやかすと。
「それに関しては魔王国でも議論を重ねた。
 結論は大丈夫だということになった」
 ほんとうに大丈夫なのか?
「ルー殿の作った転移門は、少し特殊でな……」
 魔王の言葉に、ルーが少し拗ねた顔をする。
「私の作った転移門は、移動距離が短いのよ」
 そうなのか?
「うむ。
 王都とシャシャートの街を繋ぐのに、十四の転移門が必要になる」
「直線で繋げば、その半分で済むのだけどね。
 普通の転移門と一緒にするのはなんだから、短距離転移門と呼びましょう」
 短距離転移門ね。
 それで数がいるのか。
「それに加え、その単距離転移門はルー殿が作ったとは公表せず、遺跡から発見したということにして外に出す。
 数もちゃんとな」
 なるほど。
 それなら他国も安心か。
「まあ、こちらの発表した数を鵜呑うのみにはしないだろうが、ルー殿が作ったということは誤魔化せるだろう。
 それで、設置場所なのだが……」
 魔王が簡単な地図を出し、設置場所を教えてくれる。
 なるほど、王都とシャシャートの街の途中にある村や街に転移門を設置し、連絡させるのか。
「短距離転移門の利用に関しては、ある程度の制限を持たせる。
 まず、簡易転移門の利用に関しては基本的に無料とした」
 無料はすごいな。
 大丈夫なのか?
「有料部分もある。
 転移門を一つ使うたびに、行き先で一泊を強制させる」
 一泊か。
「これは単距離転移門を設置した村や街の経済を守るためだ」
 無駄な時間に思えるが、道中の村や街にすれば必要か。
「まあ、宿代の不当な値上げなどは取り締まる必要があるがな。
 簡易転移門の管理と警備に軍を派遣する。
 宿が少ない場所には、建設もしよう」
 すでに色々と考えられているようだ。
 魔王の説明によどみがない。
 一泊の制限は、軍関係者は制限外とし、商人や旅人でもお金を払えば免除になる。
 急ぐ場合は、お金を払って移動という形になる。
 ああ、馬車のサイズや荷物料で払う額がかわるのか。
 そこで、人、物、金の動きをある程度制限するのか。
「道中の安全は格段に向上し、王都とシャシャートの街の交流が深くなる」
 色々と影響は大きそうだが、魔王国のトップである魔王が責任をもって行うなら問題はない。
 ……
 なぜその話を俺に?
 魔王が決めたのなら、やればいいんじゃないか?
 計画実行に資金が足りないから、俺に出資してほしいそうだ。
 代価は、俺の関係者は簡易転移門を自由に使っていいと。
 国で足りないって……
 ああ、予算の面で余剰がないのね。
 商人に出させると、そこだけが太って困ると。
 むう。
 出してもいいけど、この計画だと俺にメリットがない。
 お金には困っていないが、無駄使いは……
 いや、王都とシャシャートの街が近くなれば、この村から王都までの距離が実質、五村からシャシャートの街へ移動する一日だけとなる。
 王都の学園に通うウルザやアルフレート、ティゼルに会いやすくなる。
 メリットはあるのか。
 俺が少し考えていると、ルーがニコニコしながら言った。
「私が作った短距離転移門の数は十五よ」
 ……?
 ルーが、魔王の出した地図を指さす。
「十五個目を五村に設置して、シャシャートの街と繋ぐのはどうかしら?」
 ……
 俺はヨウコを呼び、一時間ぐらい相談したあと、計画への出資を決めた。


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