原文3
・1話「無界閣」
虚淵 TVシリーズ3期の1話はTVシリーズ2期の最終話から時系列がつながっていて、3期が1期、2期で描かれた内容の総括から始まることを開示する必要がありました。だからTVシリーズ1期、2期で出てきた特殊な単語が飛び交ううえに、会話の量もちょっと多くなってしまいました(笑)。物語の導入部としての見せ場は、まずは無界閣の美術。2期は物語の都合上、普通の景色……荒野や廃屋のシーンが多かったので、3期はそうじゃない、常識離れした美術を見せたいという思いがあって、1話からその方向性を示してみました。そしてもうひとつ、新キャラクターの顔見せもポイントです。とくに、異飄渺の特殊なアクションを見ていただく話数になっているかと思います。
・2話「魔境漂流」
虚淵 2話は今回のキーアイテム、逢魔漏(オウマロウ)の力を見せる話数でした。3期はいろいろな場所を転々としながら冒険を繰り広げていくわけですが、その前提を理解してもらうために、このアイテムを使うと何が起こり得るのかを一気に畳みかけて開示する。そのために、セットやキャラを贅沢に使わせてもらいました。赤い髪の人とか、この話数でしか出てこないですからね。時間旅行は……あまり書くときは意識していませんでしたけど、SFのテーマとして好きなのかもしれません。あとは、いきなり危うい目に遭う捲殘雲も見せ場……かなあ(笑)。彼のことを心配する人はライター仲間にも多いんですけど、まあ、3期を生き延びた以上、このあとはそうそう死なないと思います。
・3話「愛執の皇女」
虚淵 萬軍破の物語を描く回ですね。萬軍破のバックボーンや葛藤は、この話数でほぼ説明しています。その裏で浪巫謠が刺されたり、婁震戒が義手になったりする話数でもありますが。浪巫謠は刺された結果、しばらく背負われっぱなしに。強いキャラクターであっても、あらゆる局面において無敵だと物語が成立しない。もろいときはとことんもろいというのが、自分のなかでは物語を描くうえで必要な要素だと思っています。浪巫謠が嘲風に黙って刺されてやるのは、彼自身、自分が異形の人間であることに対する引け目があって、結果はどうあれ、それを受け入れてくれた嘲風を裏切った負い目を抱え続けているんでしょうね。
・4話「魔剣の行方」
虚淵 4話は婁震戒が戦闘に乱入したり、睦天命が再登場したりする話数ですね。婁震戒のあたりは、書きながら「東映さんの作品っぽい展開だな」と思っていました。場を荒らす役の2号ライダーって、こういう動きをするよなあ……みたいな。『仮面ライダー』の現場を経験して、癖がついちゃったかな?みたいな気分になりました。婁震戒が新しい技を出すタイミングも、ライダーっぽいし(笑)。
・5話「妖姫伝説」
虚淵 5話は前話のラストで登場した睦天命と天工詭匠ががっつりとしゃべるのと、七殺天凌こと照君臨(ショウクンリン)の過去が一気に語られる回。大きな過去回想編とでもいいますか。七殺天凌の裏設定をこの回ですべて開示するために時間も場面もどんどん飛ぶので、セットや小道具を大量に新しく作る必要があって、撮影には負担を相当かけました。浪巫謠の傷を癒やす薬に関しては、この作品はファンタジーと銘打っている以上、ああいう飛び道具もありかなと考えました。キャラクターのダメージコントロールは、作品がハードになればなるほど難しいんです。アクションをやればダメージを負わないわけにはいかないけど、下手にキャラクターを傷つけすぎると戦線に復帰できなくなる。でも、魔法がある世界なら、徹底して弱体化しているキャラクターも一気に戦線に戻せる。これは活用しない手はないだろうと。
・6話「禍世螟蝗」
虚淵 6話の見どころは禍世螟蝗とのバトルシーンですね。3期でいちばんの見せ場かもしれないので、現場も力を込めて手がけてくださいました。ほかの撮影がひと通り終わったあと、満を持して撮ったんですよ。シリーズを通して最強のキャラクターとのバトルなので、そこはちゃんとしようと。ハイスピードカメラを使ったりして、見事にこちらの期待に応えてくれました。禍世螟蝗は速水奨さんの芝居も、圧倒的な感じでしたね。
・7話「魔界伯爵」
虚淵 この話数は魔界登場編みたいな感じですね。このあたりから、いろいろな人の思惑が交錯し始めて、話がこじれます。阿爾貝盧法の登場もここからですし。先の展開がわかりづらくて、見てくださった人に気を揉ませてしまったかもしれません。魔界の三兄弟は漠然と「『ヘル・レイザー』みたいなのがいいです!」とだけお伝えして、デザインから霹靂さんにおまかせしました。見たときは「布袋劇の世界でセノバイトを召喚するとこうなるのか!」みたいな、いい意味での驚きがありました。
・8話「陰謀詭計」
虚淵 このあたりは脚本を書くうえで悩みました。いろいろな勢力が入り乱れ、さらに各勢力も一枚岩ではなく、話がどんどんややこしくなっていく。さらに、この次の話で例のキャラクターの入れ替わりが起きるので、それに向けた配置の調整もありました。で、いざ見返してみると、殤不患がほぼ蚊帳の外の話だったんだなって(笑)。
・9話「時の辻神」
虚淵 ここからが、2回目を見るとより楽しめる話ですね。凜雪鴉、捲殘雲、異飄渺の3人の中身が入れ替わっている。脚本の冒頭に「視聴者に悟らせないことを前提に、演出の際に念頭に置いていただきますようお願いします」と注意書きを入れて、操演師さんや声優さんにはあらかじめ伝えておいたので、うまく演じていただけたと思います。内容的には殤不患と浪巫謠のあいだでちょっと行き違いが生じたり、スリリングな展開にもなっていました。クライマックスで白蓮が登場するのも、ショッキングなタイミングにできたかなと思っています。話が後半戦にもなって、新キャラクターは出るわ、世界は広がるわで、派手な展開だったなあと。
・10話「聖剣の秘密」
虚淵 白蓮は大事なキャラクターなので、脚本を書く際に緊張しました。それもあって、思い入れのあるエピソードです。殤不患と白蓮のやりとりの内容を考えると、もしかしたら3期のいちばんキモになるエピソードかもしれません。そこでのセリフにも出てきますが、やはり僕は「時間のループ」というものに対してネガティブなんです。過去の改ざんは、どんな形であれ、決していいものではない。ほかの作品に対してまでNGだと言いたいわけではないですが、あくまで僕個人の価値観としては、後悔は後悔で抱えて生きていかければいけないんじゃないかという気持ちがあります。それを踏み越えたら、もはや人ではなくなってしまうんじゃないか。人が人として悩む以上は、運命は変えてはいけないだろう、と。
それは殤不患と睦天命の描き方にも出ているかもしれません。殤不患と睦天命はもともと仕事のパートナーという意識があるから、お互いに惹かれるところがあっても、一線を引いていた。そして殤不患は禍世螟蝗との戦いのあと、睦天命をこれ以上傷つけたくないから一旦距離を置いた。でも、距離を置いてしまったことに対する後ろめたさもあって、仕事が終わるまでは責任を取れないと感じている。直に会ったときに、自分の弱さをさらけ出さずにいられる自信もない。わりとひとりでがんじがらめになっている。一方、睦天命のほうは悲劇を受け入れているというか、後悔はないんです。ただ、殤不患がそこまで割り切れる人間じゃないことも理解しているので、あえて追わないし、問いたださない。差はありますが、ふたりとも大人で、過去を変えたいとは思わないんです。浪巫謠はその点、ふたりに対して情を持ってしまったので、今のふたりの状態に気を揉んでしまう。彼だけが、後悔を抱えきれないところがあります。あとは細かいところだと、凜雪鴉が揉む刑亥の脚は、シリコンか何か、軟式の素材で作った人形の脚です。実写(人間の脚)じゃないですよ(笑)。アクションだけではなく、そういう部分でも試行錯誤して映像をパワーアップしてくれています。
・11話「遠い歌声」
虚淵 この話数では、禍世螟蝗のスタンスが語られるところが重要ですね。善と悪、両方に意味はないのだ。善と悪を決めるポジションに立つのが、本当の支配者なのだ……と。まさにこの考え方が、彼の正体です。悪人よりもさらにタチの悪いラスボスのポジションですね。あとは浪巫謠の出生の秘密でしょうか。浪巫謠はどうもひどい目に遭うポジションのようです。そして、その話を通じて、魔族の価値観も露骨に見えてくる。憎しみを愛として受け止めるヤツらなんですよ、魔族は。その魔族である阿爾貝盧法は、自分が想像する純粋な悪役です。禍世螟蝗みたいな悪を超えた悪ではなく、悪の道を極めた、生来から歪んでいる邪悪なキャラクター。刑亥も歪みを抱えているんですけど、アイツはドジを踏んだり、ツメが甘かったりで、愛されキャラなところがあるので。阿爾貝盧法はもっと露骨に、価値観そのものが人間と噛み合っていない、エイリアンみたいな悪です。
・12話「烈士再起」
虚淵 種明かしの回ですね。脚本を書いていても、声優さんたちの収録を見ていても爽快でした。それぞれのキャラクターの見せ場が作れて、なかでも、ここに至ってようやく萬軍破がカッコいいキャラとして立ち上がれた。殤不患の説教を受けて、脚本だと萬軍破は言い返さないで終わるんですけど、大塚明夫さんがアドリブで「然り」と入れてくださいまして。あまりにカッコよくて、採用しました(笑)。萬軍破はもともと大塚さんがきっかけで生まれたキャラでもあるんです。3期の話を考え始めようとしていたころに、たまたま大塚さんとお会いする機会があって「何かまた一緒にお仕事したいですね」とお話ししたんです。そういえば、小山力也さんであったり、安元洋貴さんであったり、太い声の男性キャストが声を当ててくださっていたキャラはみんないなくなってしまったし、そういうキャラを書いて、大塚さんに出ていただけたらいいな……と。あくまで「出ていただけたら」であって、大塚さんありきの当て書きをしたわけではないんですけど、結果的にはお願いできて、アドリブも含めて、キャラを完成させてもらえた感じがしましたね。
・13話「照君臨」
虚淵 13話はアクションに尽きます! 本当にもう、ずっと戦い続けてもらって、集団戦から決闘から、芸の限りを尽くしてもらって素晴らしかったです。萬軍破が魔剣目録を使いこなすところでは、脚本の段階ではなかったアイデアをいっぱい盛り込んでいただけました。3期は静かな陰謀のシーンが多かったので、その鬱憤を晴らすかのように派手なバトルに徹してくれたのは、本当によかったです。